格言・名言・俚諺で考える
学習法大全

Dictum002

「あいかわらず「自分で考えること」の重要性ばかり指摘する人があとをたたぬのは、やはり危険な兆候だ」は、○か×か?

恐らくこの文言は有名ではありますまい。先回がコレギオ・タマノス全体の宣言文だったので、二回目としては,この「学習法大全」の行く末に対して、先ず以て奈辺(なへん)に錨を沈めるかを決めるために、格言・名言・俚諺とも思えない命題から始めたいと思います。

この挑発的な物言いは、かつて東大総長でもあった蓮見重彦さんが東大の『教養学部報』に書いた「思考の誕生」(註)という短い文章から取りました。勿論、○です。

その文章が書かれたのは1998年なんですが、2020年代も半ばを過ぎた今に至っても、あいもかわらず、いやさらに声高に叫ばれているのが、「思考力を養おう」「個性を重んじた教育を」とか、「日本の大学受験に較べてアメリカの入試は独創性が重んじられている」「ヨーロッパ、たとえばフィンランドの教育は世界一だ」とか、挙げ句の果てに、文科省が「考える力」とか「生きる力」などというスローガンを掲げたりする始末です。さらに曰く、「日本の学歴主義がいけない」とか、「知識の丸暗記学習が日本を滅ぼす」などというコトバが、如何にも“識者”と呼ばれるような方たちによって喧伝(けんでん)されると、いよいよもってこの邦のコンセンサスとして、「自分で考えよ」に抗うことは、最早、犯罪であるかの如くです。

そこで皆さん、“自分で考えてみる”ことです。一聴、だれも批判できないコトバがどこかで語られていたら、その一事をもってして、端的にそのコトバは間違いだと疑う勇気を持ちましょう。

さて、見出しの文言を“自分で考える”ためには、まず他人のコトバに接してみなければなりますまい。東大の総長を務めた人が何を考えているのか、それがトーダイを目指す、そうたとえばあなたが、まず最初にやってみることではありませんか?

註 : 蓮見重彦 「思考の誕生」『齟齬の誘惑』所収 (講談社学術文庫 / 講談社 2023)